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Novel 〜第1章〜

小説

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Beginning of GenesisGirl Section 8

「狭いところではございますが、こちらの部屋をお使い頂ければと存じます。何かお困りの事がありましたらいつでもお呼びください。それではいったん失礼いたします」

 修道女の服装に身を包んだ女性が、まるで祈りを捧げるかのように両手を胸の前で組む。
 そして満足そうに笑みを浮かべると、もう一度深々と一礼してから部屋を後にした。

 コツコツコツと足音が遠ざかっていくのを確認すると、メイはベッドに、そしてリコはソファにどかっと腰を下ろす。
 しばらくの静寂。やがてソファにもたれかかっていたリコが小さく口を開いた。

「……疲れたね」

「うん、さすがにね……」

 リコの言葉に、メイも力なく声を返す。やがて、二人の口からふーっと大きなため息がこぼれた。
 ゆっくりと倒れ込むように身体をベッドへと転がすメイ。ようやく落ち着ける場所にたどりつき、身体が支えきれなくなったようだ。

 窓の外から入り込む夕焼けの紅い光が、メイの顔を暖かく照らす。
 とにかく、今日一日色んな事が起こりすぎた。
 学校の授業が終わったらすぐにレッスンに向かい、リコと一緒に新曲の練習。レッスンが早めに終わったのでスイーツを食べに行こうという話になり、二人でエレベーターに載ったところまではしっかりと覚えている。

 ただ、その後のことははっきりと思い出せない。覚えているのは急に真っ暗になったことと、気づいたら見たこともない森の中だったことだけだ。
 近くに倒れていたリコが目を覚ましたときには本当にほっとした。自分一人だったら、きっとパニックを起こしていただろう。

 しかし、そこからがまた大変だった。
 とにかく森の中から出ないとという一心で森の中を彷徨っていると、熊のように大きな石の怪物に遭遇。紅い目をギランと光らせ、グルグルルと喉を鳴らしながら自分たちへと向かってくるではないか。
 リコと一緒に必死で逃げたものの、とうてい逃げ切れそうになかった。もしゴードンに助けてもらえなかったら、きっと今頃は怪物のお腹の中にいたことだろう。

 とにかく怖かった。思い返すだけで身が震えてしまう。
 そして、どこからともなく不思議な声が聞こえてきて、二人で歌って、アンジェ歌聖使と呼ばれ、この街にやってきて……。

「いた、いたたたっ!!」

 急に頬をつねられたメイが、びっくりして起き上がる。
 すると次の瞬間、おでこが何か硬いものにゴチーンとぶつかった。

「ったーい!」

 額を押えながらメイが顔を上げると、そこには同じように額を押えるリコの姿があった。
 こちらを伺いながらペロっと舌をだすリコに、メイがぷぅと頬を膨らませる。

「もーっ! 痛いのはこっちだって! 急にびっくりするじゃん!」

「ごめんごめん、今が夢なのか現実なのか知りたくって」

「だからって、私のほっぺたつねらなくてもいいじゃん!」

「だって、メイちゃんのほっぺ、すごくふにふにで気持ちいいもん。きよめ餅みたい」

「まさか、そんな理由!?」

 リコの口から告げられた犯行理由に、思わずメイの目が点になる。
 口をパクパクさせていると、リコがおでこをさすりながら、ぽつりとつぶやいた。

「でも、うん。やっぱ夢じゃなかったみたい、だね」

 その言葉に、メイは言葉を詰まらせる。つねられた頬も、ぶつかったおでこもは間違いなく痛かった。つまり、そういうことなのだろう。

「……これから、どうしよう」

 メイがポツリと言葉をこぼす。
 いまだに信じられないが、この『異世界』に来てしまったのはやはり現実のようだ。
 戻り方なんてもちろん分かるはずがない。そもそも元の世界の自分たちは死んでしまった可能性すらある。いろいろ読んできた異世界モノの作品なら、転移転生するキャラは一度死ぬのがお約束だ。

 家族にも、友達にも、グループの仲間やファンのみんなにも、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
 すると今度は、背中から包み込むようにリコが抱きついてきた。
 間近に感じるリコの体温の温かさに、思わずドギマギしてしまう。

「ちょっ!? リコ?」

「大丈夫。きっと何とかなるよ」

「でも、どうやって? 何がどうなってるのか全然わかんないし、どうしようもないかもしれないじゃん」

「それでも大丈夫。だって、メイが一緒だもん、ね?」

 リコはそういうと、メイをさらにぎゅっと抱き締める。
 リコの息が耳元に当たり、メイは思わずビクッとなってしまった。

「んもっ、顔が近すぎてくすぐったいって……てか、さっきからなんか背中に当たってるんだけど!?」
「ふふーん、柔らかくて気持ちいいでしょー?」
「いや、柔らかいけど! けど!」
「それともこっちがいい?」

 そう言うが早いか、リコがふっとメイから離れる。
 急に背中の支えを失ったメイが後ろに倒れると、頭の後ろがぽふっと柔らかな感触に包まれた。

「いや、リコの膝枕は確かに気持ちいいけどさぁ……」

 メイはふうと息をつくと、口を尖らせる。
 しかしリコは、不服そうなメイにかまうことなく、ゆっくりと頭をなで始めた。

「目を覚ましたら全然知らない場所だし、石の怪物は追いかけてくるしで、本当に怖かった。もしメイちゃんがいなかったら、きっとすぐにくじけてたと思う。でも、メイちゃんが一緒だったから、私を引っ張ってくれたから頑張れたんだ。これからどうすれば良いか何て全然わかんないけど、リコちゃんが一緒にいてくれるならきっと頑張れると思うんだ」

 いつしかリコの手は止まり、かすかに震えていた。
 その震える手に、メイも自分の手をそっと重ねる。

「分かってる。私も同じだよ……」 

(続)

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