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アイドル異世界のステージに立つ 1

創世記少女 -GenesisGirl- written by Swind

Episode 1 〜 アイドル、異世界のステージに立つ(1)

 星一つ無い、暗闇に包まれた世界。その中をただ当てもなく彷徨う。
 まるで宇宙空間にでも放り込まれてしまったかのよう。でも息は出来るし、別に寒くも暑くもない。
 何かふんわりとしたものが身体を覆っていて、それがとっても心地良いんだ。
 そのせいか、なんだか頭がぼんやりしている。これは夢? それとも現実?
 まぁいいや。もうしばらくこの心地よさに浸っていよう。

 すると、どこからか声が聞こえてきた。

「……メイ、メイー?」

 うーん、もう五時間このままいさせてよ。なんだかとっても眠いんだよね……。

 その刹那、首筋に冷たい何かがあたってきた。

「ひあぁ!?!?」

 突然の感触に、思わず身体がびくっと反応する。慌てて身を起こすと。次の瞬間、ゴチーンといい音がした。

「……ったたた」

 おでこに走る強烈な痛み。もう、いったい何なのこれ!? 
 でも、その痛みのせいですっかり意識が戻ってきた。
 痛みを振り払うかのように頭をふるふると震わせながら、ゆっくりと目を開く。
 正面では、デビューに向けて共にレッスンを頑張ってきた“パートナー”が、同じように額を押さえていた。

「もー! せっかく気持ちよくまどろんでいたのにー」

「だってもう朝だしー」

「そんなこと言ってもまだ目覚ましも鳴ってないし……」

 朝七時になればスマホ入れている自分たちの曲が鳴る。それが目を覚ます合図。
 その合図が無いんだから、まだまどろんでいても良いはずだよね。
 ってあれ? そういえばスマホどこいったんだろう。いつも手を伸ばして届くところに置いているはずなのに。
 そもそも、なんでリコが一緒にいるんだろう?

「あれ? リコ、今日って合宿だっけ?」

 すると、リコが不思議そうに首をかしげる。
 そしてふぅと一つ息をつくと、ちょっと困ったような笑顔を見せながら口を開いた。

「もー、忘れちゃったのー? 私たち『異世界』に来ちゃったんだよ」

 リコの言葉にようやくはっきりと思い出すことができた。

 私とリコが、異世界に飛ばされたということを——。

— ☆ — ☆ — ☆ —

 メイとリコはテキパキと身支度を調えると、階段をタッタッタと降りていく。
 食堂の扉を開けると、ふわーっと美味しそうな香りが二人の鼻をくすぐった。
 一足先に食卓に着いていたゴードンが、二人の姿を見てすっと立ち上がる。

「メイ様、リコ様、おはようございます。少しはゆっくり眠れましたか?」

「ゴードンさん、おはようございます。おかげさまでぐっすりでした」

「メイちゃん、朝になっても全然起きなかったんですよー」

「ちょっと、リコ!?」

 メイが慌てて振り向くと、リコがおどけながらペロッと舌をだす。メイの頬が思わずぷぅと膨らんだ。
 するとそこに、エプロン姿のアンナが大きなお盆を携えてやってくる。

「ぐっすり眠れたのは良いことですわ。睡眠と食事は健康の基本。簡単な朝ごはんですけど、たっぷりとお召し上がり下さいね。ささ、こちらへどうぞ」

 アンナはそう言いながら、運んできた料理をテキパキとテーブルに並べる。
 こんがりと焼けたパンと目玉焼き、それに野菜のサラダ。そして足つきの大きなカップに入った飲み物。その色目はメイにもリコにも馴染みのあるものだった。
 リコがアンナに顔を向けながら、飲み物の正体について確認する。

「これって、もしかしてカフェオレですか?」

「ええ。朝食のカフェオレはこの辺りの定番なの。ささ、冷めないうちに召し上がれ」

「ありがとうございます! じゃあ、いっただきまーす!」

「私も、いただきます」

 メイは元気よく、リコはしとやかに手を合わせてから、そろってパンに手を伸ばした。 普段食べていた食パンよりはやや黒っぽく、フランスパンのようにパリパリとした皮はしっかりと歯ごたえを感じる。口に含むと少し酸味があり、そしてとても香ばしい。噛めば噛むほど味が出てくる、とっても美味しいパンだ。
 メイがパンから溢れてくるうま味を楽しんでいると、リコが声をかけてきた。

「なんかモーニングみたいだね」
「そうだねー。これであんこがあったら完璧に名古屋のモーニングだよねー」

 メイがそう答えると、二人はくすっと笑みを浮かべた。
 その様子に、ゴードンがうんうんと頷く。

「メイ様リコ様のお口に合って何よりです」
「パンとカフェオレならお代わりがありますから、遠慮無く言って下さいね」
「ありがとうございます!」

 アンナの気遣いにメイが元気よく答える。シンプルで素朴、しかし真心がいっぱいこもった朝食は、二人とって何よりのものであった。

— ☆ — ☆ — ☆ —

 食事を終えたメイとリコは、ゴードンとともにオーストンの郊外へとやってきていた。
 ゴードンが背負う大きな篭の中には、郊外の農家から仕入れたばかりの新鮮な野菜がたくさん入れられている。メイとリコが手にする手提げカゴの中に、美味しそうなトマトやきゅうりなどが顔を覗かせていた。

「申し訳ございません、買い出しに付き合わせてしまいまして……」

「いいのいいの。これからいっぱいお世話になるんだから、私たちもお手伝いできることはしないとね」

「それに、これから暮らしていくこの街のことを知らないといけないですし、こうして一緒に街を案内してもらえるのはとっても嬉しいです」

「ファン……じゃなかった、信徒も増やさなきゃいけないしね。いっぱい頑張らないと!」

メイはそういうと、拳をぐっと天に突き上げた。その様子に、ゴードンが目を潤ませる。
「お二方のような素敵な歌聖使様をお迎えすることが出来、このゴードン、本当に幸せ者です。微力ではございますが、メイ様とリコ様のお力になれるよう精一杯努めて……」

「ほらほら、もうそういうの大丈夫だから。って、あれ、何だろう?」

 事あるごとにかしこまろうとするゴードンに苦笑いを浮かべていたメイだったが、視線の先に人が集まっているのに気がついた。
 この街にやってきた時にもくぐった赤レンガ造りの大きな門『レッドゲート』。その向こう側に不自然な人だかりが出来ている。楽しげに人々が集まっているのとは違う、不穏な気配が感じられた。
 リコもまたそれに気づいて首をかしげる。

「なんでしょう? あまり良い感じはしないのですが……」

 するとその時、集まっていた人たちの数人がドーンと勢いよく吹き飛ばされた。
 その周囲にいた人たちも慌てて逃げ惑う。
 視界が開けると、騒ぎの中心に一人の男が立っているのが見えた。
 男はすーっと息を大きく吸うと、ウォーと雄叫びを上げる。すると真っ黒な煙が男を包み込んだ。

 禍々しさに溢れた煙が消えると、そこにあったのはすっかり異形と化した男の姿。筋肉は不自然に膨れ上がり、目が赤く光っている。頭から飛び出した角は、まるで鬼のようだ。

「な、なにあれ……」

 狂気としかいいようの無い姿に変わり果てた男の様子に、メイもリコも思わず身を震わせる。
 するとゴードンが背負っていた籠を下ろし、真剣な面持ちで一歩前へと踏み出した。

「メイ様、リコ様。お下がりください! ここは私にお任せを——!」

(続)

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