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アイドル、異世界のステージに立つ 2

創世記少女 -GenesisGirl- written by Swind

Episode 1 〜 アイドル、異世界のステージに立つ(2)

「グォーーーーーー!!」

 異形の姿に変わり果てた男が咆吼を上げると、周囲にいた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
 目は血走ったよりも赤く染まり、額からは二本の角らしきものが生えている。腕や足は丸太のように膨れ上がり、全身がまるで筋肉の鎧で覆われているかのようだ。
 苦しみにも似た呻き声を上げながら、異形の男が地面を足で踏みつける。
 刹那、ズシーンと鈍い音が響き、石畳がいとも簡単にバリバリと砕けていった。

「や、ヤバっ……」

 現実とは思えない光景に思わず後ずさりするメイ。
 リコもまたメイの腕をつかみ、身を震わせていた。
 するとゴードンが、二人を背にかばいながら、すっかり怪物と化した男へゆっくりと近づいていった。
 
「アルテュイア神の名において命ずる! 忌まわしきアポステートよ、この世から立ち去れい!」

 街路一帯に響き渡る叱声。その大きな声が耳障りだったのか、怪物がゆっくりとゴードンへと振り向いた。
 怪物が舌をペロリと舐めずると、ドンという音とともにゴードンへと突撃。彼我の距離は一瞬にして消滅し、パンパンに膨れ上がった怪物の腕がゴードンの頭上めがけて激しく振り下ろされた。

「ゴードンさん、危ないっ!!」

 思わず叫んだのはリコ。刹那、鈍い音が響くととともに、瓦礫が二人の周囲に激しく飛び散った。
 地面にめり込んでいるのは怪物の腕のみ。間一髪で身をかわしていたゴードンが、六つに割れた怪物の腹を強く蹴り飛ばす。怪物の大きな体躯が一瞬宙を舞い、再び地面がズシーンと揺れた。

 背中から倒れた怪物を睨みつけながら腰に手を回すゴードン。そして帯剣している幅広の片刃剣(ファルシオン)をザラリと抜くと、両の手でしっかりと握り切っ先を怪物へと向ける。怪物は一度首を振るうと、グルルと喉を鳴らしながらゆっくりと起き上がった。

— ☆ — ☆ — ☆ —

 その後の攻防は一進一退が続いていた。怪物は無造作に腕を振るい回し、膂力に任せてゴードンへと襲いかかる。一方ゴードンも一歩も引くことはない。時折怒声を浴びせながら、振るわれる腕をかわし、時にはがっしりと受け止めながら、相手の隙に乗じてファルシオンを叩き込みつづけていた。

 いつしか怪物の身体には無数の傷が刻まれ、ところどころから血が噴き出している。その返り血がゴードンの身体を赤く染めていた。
 しかし、怪物に一向にひるんだ様子はない。ゴードンが全力でファルシオンをたたき込んでいるにも関わらず怪物の皮一枚切るのがやっと。傷は浅く、たいしたダメージになっていないのは見るからに明らかであった。

「ハァ……ハァ……」

 ゴードンの荒い息づかいに街路に響き、肩が徐々に揺れ始める。長く続く戦いに、ゴードンの体力は確実に消耗していた。

「ゴードンさん……」

 二人から大きく距離を取るように出来た人垣の中で、リコが心配そうにゴードンの様子を窺う。しかし、その祈りもむなしく、怪物の攻撃がますます激しさを増していく。いつしかゴードンは怪物の受け止めるのが精一杯になるまで追い込まれていた。

 劣勢が目に見えてくると、周囲のざわつきも一際大きくなる

「おいおい。どこの神官か知らんけど、もっと頑張ってくれよ」
「誰か、大神殿に向かっているのか? このままじゃ俺たちの店が壊されちまう!」

 愚痴と悲鳴が混じり合ったような、しかし決して心地よさは感じられない言葉。
 それが聞こえてしまったメイは、激しく憤る。
 気づけばメイは、リコの腕を引きながら前へと足を踏み出していた。

「メイちゃん!?」

 突然腕を引っ張られ、驚いたリコがメイへと顔を向ける。
 メイは真っ直ぐにゴードンを見据えながら、きっぱりと言葉を放った。

「行こう! ゴードンさん、助けよう!」
「でも、私たちじゃ何の助けにも……あ!」

 その言葉に一瞬戸惑いを見せたものの、すぐさまリコもメイの意図を理解する。
 そう、自分たちは何も出来ない少女ではない。この世界で使命を果たすためにやってきた“歌聖使(アンジェ)”だったんだと——。

— ☆ — ☆ — ☆ —

「なんだ!? あの光は!?」

 人垣の前で突如放たれた光に、人々のざわめきが一層大きくなる。
 その白くまばゆい光に、ゴードンに襲いかかろうとしていた怪物が一瞬たじろいだ。
 その一瞬の隙を逃さず、ゴードンがファルシオンを握りしめたまま怪物を突き飛ばす。

 そして、光と怪物の間に立つと、視線は怪物を見据えたまま、しかしはっきりと後ろに聞こえるように自らが仕える二人の歌聖使の名を呼んだ。

「メイ様! リコ様!」

 光が収まる中、メイとリコはウンとひとつ頷き、そしてすーっと息を吸う。
 足下の魔法陣が白く輝き、そしてどこからともなく激しく熱いメロディが響き渡った。

「おい! あれ、もしかして……!!」

 人垣に広がっていたざわめきが、恐怖から希望へと色を変えていく。
 二人は天高く両手で祈りを捧げると、この世界にやってくる前から何度も何度も練習してきた一曲を歌い始めた。

『週末の街に溢れる偶像(アイドル)』『安っぽい歌に上っ面のSmile』
『有象無象の虚像に立ち向かえ!』『Dead or Alive Warsを 進め!!Let’s Sing a Song』

 激しい旋律に乗せられた叫ぶような歌声に、ゴードンは体内からエネルギーが湧き上がってくるのを感じる。フンッと大きく息を吐くと、しっかりとファルシオンを握り直し、怪物に向けて再び切っ先を向けた。

『そう 夢見ては 過ごしてた LOOPなDay by Day』
『Helter Skelter 生き残るため踊る…嗚呼(ああ)…嗚呼(ああ)…』

 怪物もまた黙ってはいない。突如現れた少女たちに一瞬驚きはしたものの、まるで美味そうな獲物でも獲物を見つけた可能に、目を紅く輝かせ舌舐めずりをする。
 そして、大きな足音を鳴らしながら、激しく踊りながら歌う二人の少女へと突進し始めた。

『今、偶像連鎖(アイドルレンサ) 止まらないもう!!! 今日も何処かで増殖!!!』
『嗚呼(ああ) 偶像(アイドル)地下で 崇められては 儀式(ミサ)に歓喜と葡萄酒』

「お前の相手はこの俺だ!」

 ゴードンは突進する怪物の真正面に立つと、怪物の額をめがけファルシオンを打ち下ろす。すると、ガギーンと音が響くと同時に、分厚い刀身が宙を舞った。余りの衝撃の強さに、ファルシオンが根元から折れてしまったようだ。
 一方の怪物も膝を突いて額を押さえる。ゴードン渾身の一撃に自らの勢いが重なったとあってはさすがにダメージは大きいようだ。
 それでもすぐさま立ち上がると、憤怒の形相でゴードンへと襲いかかる。

『負のinfluencer 感謝の礼拝  蝕んでいく現実』

「なんの!!」
 両腕でつかみかからんとする怪物の腕を、ゴードンもまた両腕で受け止める。
 そして真正面からがっぷりと組み合うと、怪物の顔を睨み付けながら腕を強引にねじり上げていった。

『Oh my god!! あのLeader… Ambassadorさえ 操り人形(マリオネット)な真実』

 自分を上回る相手の膂力に、怪物の顔が驚きの表情へと変わっていく。そして怪物の腕がミシミシと鳴り始めたかと思うと、バキンと大きな音を立てた。

『a Prayer,a Prayer』

 言葉にならない悲鳴が響き渡り、怪物の両腕がダラリと力なく垂れ下がる。
 ゴードンは怪物の顔をむんずとつかむと、そのまま石畳へと叩きつけた。

『Hallelujah(ハレルヤ) 嘆きの壁に“God Bless You”』

 彼女たちが最後の一節を歌い上げると、怪物の身体が石畳の上に跳ね上がった。

(続)

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