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Novel 〜第1章〜

小説

アイドル、異世界のステージに立つ 4

創世記少女 -GenesisGirl- written by Swind

Episode 1 〜 アイドル、異世界のステージに立つ(4)

「……はっ?」「えっ……?」

 サクラから告げられた思わぬ言葉に、メイとリコが目をパチクリとさせる。
 「キツネにつままれたよう」という言葉を使うのであれば、まさに今が最高のタイミングであろう。
 いったい彼女は何を言ってるんだろうか。あまりに唐突な言葉に、二人とも理解が追いつかなかった。
 戸惑いを隠せないままのメイとリコに、サクラがうぉっほんと一つ咳払いしてから再び言葉を繰り返しす。

「あら、言葉が通じなかったのかしら。後のことはハーモニストが一柱、女神パクスディアに仕えし我々にお任せなさいと言っているんです。マイナー信仰の小娘たちの出る幕ではありません。ささ、後処理の邪魔になりますのでとっととお家にお帰りなさってくださいませ」

 にこやかに、しかしどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべながら話すサクラ。
 メイは、ようやく彼女の言わんとしたことを呑み込むとみるみるうちに顔をこわばらせた。

「ちょっと! あんたら何割り込んで手柄を横取りしようとしてんのよ!! ハーモニストだかハーモニカだか知らないけどさ、この場を納めたのは私たちでしょ? それを何でアンタたちに指図されなきゃなんないのよ!」

 今にもサクラに飛びかかりそうな勢いで前に出て行こうとするメイ。しかし、その腕をゴードンがつかみ、引き留めた。

「メ、メイ様、どうか落ち着いて……」

「何で!? 私、コイツにバカにされたのと一緒だと思うんだけど!?」

「そのお話は後で私めがしっかりとお伺いいたします。どうか、どうかこの場はご辛抱を……」

 メイはなおも前に出ようとするが、ゴードンにがっしりと腕を掴まれては振りほどくことができない。

 すると、その様子を見て、サクラがハァとため息をつきながら首を横に振った。

「まったく、礼儀も躾もまるでなってませんわね。こんな粗野で野蛮な者が歌聖使(アンジェ)だなんて……、やはり所詮はジェネシストですわね」

「せやな。ハーモニストに選ばれなかった、マイナー神の悲しみといったところやなぁ」
「私たちはハーモニストの歌聖使(アンジェ)で良かったね。ね、うめちゃん」

「だーかーらー、うめちゃん言わないの!」

 サクラが振り向きながら後ろに控えていた少女をたしなめる。
 まるで自分たちを無視しているような様子は、メイの碇の炎に油を注ぐこととなった。 ゴードンの引き留めを振りほどこうと、メイは激しく腕を振る。
 するとその前に、リコがすっとサクラに近づいた。

「えっと、サクラさんと仰いましたよね? 私たちはこの世界に来て間もないので正直まだ何もよく分かりません。なので、貴女がそこまで仰るなら、後のことはお任せします」
「あら、貴女は理解が早いじゃない。そうよ、この世の秩序を守るのは私たちハーモニストの歌聖使(アンジェ)の役目。あとは安心して私たちにお任せ下さい」

「分かりました。ただ、最後に一つ。メイやゴードンさんを蔑むような物言いについては、謝ってもらえませんか?」

「はぁ? 何でアンタたちジェネシストに頭を下げ……」

「謝ってもらえますわよね?」

「ひっ……!」

 穏やかに話しているように見えたリコ。しかし、その目はまるで氷のように冷たいものであった。
 その有無を言わさない強烈な圧力に、サクラも思わず息を呑む。

 まるで時間ごと凍り付いてしまったかのような一瞬の静寂。すると今度はメイが慌ててリコに声をかけた。

「……うん、うん、わかった。リコ、とりあえず行こっか。ゴードンさん、とりあえず彼女たちに任せていいんだよね?」

「え、ええ。後ろに神官たちも控えているようですし、彼女たちに事後処理を任せても問題ないかと」

「分かったわ。ね、リコ。彼女たちに任せて大丈夫だって」

「うん。ではサクラさん、あとはお任せしますのでどうぞよろしくお願いします。それでは失礼します」

 リコはそう言うと深々と頭を下げ、そしてにっこりと微笑んだ。
 あくまでも穏やか、しかし瞳の奥に鋭さを秘めたリコの視線がサクラに突き刺さる。

「え、ええ。それではごきげんよう」

 サクラは顔を引きつらせながらそう答えるのが精一杯であった。

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「あーもう! ムカつく—!!!!」

 神殿へと帰ったメイがたまりにたまった胸の内を吐き出すように大声で叫ぶ。
 するとリコがメイの眉間に指をあてくるくると回し始めた。

「まぁまぁ、メイちゃん。あんまりカリカリしたら、ここに皺がよっちゃうよー?」

「それでもムカつくのはムカつくのー! って、むしろ最後はリコの方がガチギレしてたじゃん。久々すぎてビビったよ……」

「それは大事なメイちゃんやゴードンさんにあんな失礼な言い方されたら私だって……」
「いやいや、リコのキレ方は本当にヤバイから。相手、マジでビビってたから」

「そう? まぁとりあえず無事に帰ってこられたんだし、一件落着でいいんじゃない?」
 リコはそう言うと、にこっと微笑みを浮かべる。
 メイもまた、やや複雑そうににっこりと口角を持ち上げた。

 すると、今度はゴードンが二人の足下に跪く。

「メイ様、リコ様。我々が不甲斐ないばかりに不愉快な想いをさせてしまい申し訳ございません。このゴードン、なんとお詫びすれば良いか……」

「いや、いやいや!? 別にゴードンさんが悪いわけじゃないし!」

「そうよ。そんなにかしこまらないで」

 がっくりと頭を垂れるゴードンに、メイとリコが慌てて立ち上がるように促す。
 しかし、ゴードンは力なく首を横に振った。

「これもこれまでにアルテュイア神、そしてジェネシストの信仰をしっかりと広めることができなかった我々の力不足。痛恨の極みでございます」

「というか教えて欲しいんだけど、そのジェネシストとか、ハーモニストとかって何?」
「なんとなく、神様とか神殿の派閥みたいな感じはしましたけど、詳しく教えてもらえませんか? それにさっきのあの化け物というか、怪物のことも聞きたいですし……」

 メイとリコの言葉に、ゴードンがじっと耳を傾ける。
 そして一拍おくと、ゆっくりと顔を上げた。

「分かりました。少し長くなりますがよろしいでしょうか?」

 その言葉に、メイとリコがそろって頷く。そしてゴードンが口を開きかけたその瞬間——。

 ぐぅぅぅぅぅぅぅ。

「……メイちゃん、それは無いと思うよ?」

「ご、ごめん……」

 腹の虫がなってしまったメイ。その顔はまるでトマトのように真っ赤に染まっていた。

(続)

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