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Novel 〜第1章〜

小説

novel001

Beginning of GenesisGirl section 1

ギィンギィン、ガンガンガン……。
遠くで打ち鳴らされる激しい金属音を聞きながら、制服姿の二人の少女が岩肌に隠れてじっと身を潜めていた。
互いにしっかりと腕を抱き寄せ、小刻みに身を震わせる。
少女の一人は、膝にじんわりと血をにじませていた。

「リコ、膝、大丈夫?」
「うん、少し擦りむいただけ。メイこそ怪我してない?」
「ボクは平気。とりあえず、今のうちに手当しちゃお。えっと、絆創膏が鞄の中に……」

メイと呼ばれた少女が、ぐるりと辺りを見回す。
しかし、どこにも鞄は見当らない。

「そういえば、鞄、落としちゃってたんだっけ……ごめん」

ここにたどり着くまでのことを思い出し、しゅんとうなだれるメイ。
しかし、リコはゆっくりと首を横に振り、メイに微笑んだ。

「ううん、これくらい大丈夫。まだ『Lifeはフルゲージ』だって」

最近覚えたばかりの新曲の一節を交えたリコの言葉に、メイもまた、くすっと笑みを浮かべる。

「気持ち的は『Run a way 逃げ出したくて』だけどね」

ゴツゴツとした岩肌にもたれながら、メイがそっと耳を立てる。
激しい音はまだまだ続いている。むしろその音は少しずつ近づいてきているように感じられた。
その音の行方を耳で追っていたリコがポツリとつぶやく。

「さっきの人、大丈夫かな……」
「だ、大丈夫だって。きっと……」

笑顔を作るメイだったが、握りしめた手はブルブルと震えていた。

見知らぬ森の中を彷徨っていた二人が、目を紅く輝かせた謎の生物と遭遇したのはつい先刻のこと。
巨大な熊のように大きな体躯。さらにその全身は硬い岩で覆われている。
その異形の姿は、二人を恐怖で縛り付けるには十分であった。

ズシン、ズシンと近づいてくる足音に、急いで逃げなきゃと思うものの、足がすくんで立ち上がることすらままならない。

二人は互いにぎゅっと抱き締め、ただ身を震わせるばかり。
するとその時、ダカダカダカっと何かが駆けてくる音が聞こえてきた。

振り向いたその先には、筋骨隆々とした赤褐色の馬が一頭。
そしてその上には二本の大きな角を輝かせた、こちらも筋骨隆々とした大男がまたがっている。

「お、鬼っ……!?」

その姿に、リコが思わず息を呑む。
メイもまた、悲鳴を上げて地面にひれ伏した。

「いやーっ! 食べないでーっ!?  もうやだーっ!!」

すると、そんな二人の横を馬が駆け抜けていく。
そして鬼はバッと馬から飛び降りると、すぐさま背中に担いでいた大剣を抜き、岩熊に勢いよく斬りかかった。

ガイーン、と激しい音が鳴り響く。その激しい音にメイとリコが思わず顔を上げると、勢いに押された岩熊がその歩みを止めていた。

「早くそこの岩陰に!」
「「は、はいっ」」

鬼の言葉に、リコとメイが声を揃えて答える。
何とか身体を起こすと、岩の隙間に潜り込んだ。

しばらくハァハァと息をつき、何とか呼吸を整える。
その間にも、ガインギーンと剣と岩がぶつかり合う激しい音が辺りに響き渡っていた。

― ☆ ― ☆ ― ☆ ―

「ぐわーっ!」

ドシーンと鈍い音が響いた次の瞬間、野太い悲鳴がこだました。
そのただならぬ声にハッと顔を上げると、二人は岩陰からそーっと様子をうかがう。

「ひっ!」

目の前の凄惨な光景に息を詰まらせるリコ。
二人の眼前にあったのは、先ほどの鬼が苦しそうにひざまずく姿。
口からは鮮血がしたたり、肩も大きく上下に揺れ動いていた。

「これ、ヤバくない……?」

劣勢なのは明らか。メイが思わず息を呑む。
何とか助けたいとは思うが、自分たちではどうすることも出来ない。
二人は胸の前でぎゅっと手を組むと、彼の無事に、そして自分たちの運命に祈りを捧げた。
その時、二人の脳裏に透き通った声が響く。

――歌いなさい、生きるために。

「「えっ?」」

突然の声に、顔を上げる二人。
その刹那、彼女たちのポケットから白い光が放たれた。

「えっ? なにこれっ!?」

慌ててポケットに手を入れるメイ。取り出したスマホは、不思議な光で包まれていた。

「これってどういう……?」

リコもまた、取り出したスマホを見つめながらポツリとつぶやく。
するとスマホが二人の手から静かに離れ、宙に浮かびながら棒の形へとシルエットを変えていった。

やがて光が落ち着くと、スマホから形を変えた棒状の物体が再び二人の手に戻ってくる。
メイはそれをしっかりと握りしめると、リコに話しかけた。

「これって、どうみても……」
「マイク、かな……?」

それは日頃からレッスンでも使っており、そして二人にとって無くてはならないものであった。
理解が追いつかず、眼を点にした二人が手元のマイクをじっと見つめていると、再びマイクが光り出した。
そして、その光とともに、メロディがどこからともなく聞こえてくる。

それは、彼女たちがつい数時間前にもレッスンを受けていた曲。毎日何度も繰り返し聞いてきた、必死になって覚えた大切な曲。
彼女たちの心に、ひとかけらの勇気が浮かんできた。

メイとリコは、一度互いに顔を見つめ、うん、と大きく頷く。
そしてしっかりと前を向くと、マイクを握りしめ、岩陰を飛び出した。

『We are Genesis Girl. Are You ready? Everybody Scream !!!』
(続)

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