Beginning of GenesisGirl section 6
「ふー、ごちそうさまでしたー! おいしかったー!」
メイは串を握ったままの手を胸元で合わせると、満面の笑みを浮かべる。
それを見たリコは、少々あきれ顔だ。
「ちょっと食べ過ぎじゃない?」
「大丈夫大丈夫。今日はいっぱい歩いたり走ったりしたから、差し引きゼロどころかマイナスカロリーだって。ていうか、リコだってめっちゃ食べてるじゃん」
「だ、だってお腹ペコペコだったし……」
メイの指摘に、リコが恥ずかしそうにしながら手を後ろに回す。その手には、メイと同じように数本の串がしっかりと握りしめられていた。
そんな二人の様子に、ゴードンがうんうんと満足げに頷く。
「お口に合ったようで何よりです。では、メイ様、リコ様、そろそろ神殿の方へ……」
「神殿……? あ、そうだそうだ。うん、神殿ね!」
「メイ、今完全に忘れてたでしょ?」
「そ、そんなことないもーん。 じゃ、案内よろしくー!」
「かしこまりました。もう間もなく到着しますので、今しばらくご辛抱を」
先導するゴードンの後をメイとリコがついていく。
お腹が満たされたおかげか、二人の足取り先ほどまでよりも少し軽やかになっていた。
◇
商店が立ち並ぶ石畳の道を進んだ先にあったのは、少し開けた場所であった。
大きな広場の中央では噴水が水しぶきを上げており、その周りに荘厳で立派な建物が並んでいる。
メイとリコが辺りを見回していると、ゴードンが朗らかな表情で二人に声をかけた。
「こちらがオーストンの中心である神殿区でございます」
「すっご……」
「本当にファンタジーの世界だぁ……」
あっけにとられて息を呑むメイに対し、リコはキラキラと目を輝かせている。
その時、リコの視界に、気になる光景が飛び込んできた。
「メイちゃんメイちゃん、アレなんだろう?」
「ん? あ、なんだろう……?」
リコの視線を追いかけるように、メイも広場の向こうに目を向ける。
そこにあったのは、神殿らしき大きな建物。その白い階段の前に人が続々と集まってきていた。
人だかりは徐々に大きくなり、あっと言う間に階段の前が埋め尽くされる。
二人がしばらく様子を見ていると、次の瞬間、ワーッと大きな歓声が上がった。
驚いたメイとリコが、そろって目をパチクリとさせる。
すると、階段の上の扉がギギーッと開き、神殿の中から四人の少女が姿を現した。
その瞬間、広場を包み込むような大歓声が湧き上がる。
「わっ!」
「な、なにこれ!?」
割れんばかりの大歓声に、大きく目を見開くメイとリコ。
そんな二人に、ゴードンが声をかけた。
「どうやら説歌(ライブ)が始まるようですね」
「ライブ……です?」
「ええ、歌聖使(アンジェ)様たちの大切なお役目です。せっかくなので見て行かれますか?」
「う、うん……、リコ、どうする?」
「うーん、良く分からないけど、メイちゃんが一緒なら見ていきたい……かも……」
『ライブ』という馴染みのある言葉。しかし、この異世界でその言葉を聞くとなんとも言えない戸惑いが感じられた。
メイとリコは手をしっかりとつなぐと、ゴードンとともに人だかりへと近づいていく。
すると、辺りのざわめきが静寂へと変わった。
次の瞬間、どこからともなく音楽が聞こえてきた。
アップテンポで元気が出るような、思わず身体が動いてしまうような明るい曲。
それは彼女たちにはとても馴染み深い雰囲気を持ったリズムとメロディであった。
◇
「今日はありがとー! 来週も、また来てねー!」
四人組のリーダーと思われる可愛らしい衣装を身に纏った歌聖使が観衆に呼びかけると、辺りは一際大きな歓声に包まれた。
いつしか食い入るように説歌に見入っていたメイとリコもまた、歌い終えた四人に拍手でエールを送る。
「すごかったねー! ホントにアイドルのライブだったよー!」
興奮気味に話すリコに、メイもうんうんと何度も頷く。
「びっくりだよね! だって、ここ、異世界だよ? 異世界でこんなにすごいアイドルライブ見れると思わないじゃん! あー、なんかうずうずしてきちゃった!」
「私もー! いっぱい歌って踊りたーい!」
「ええ。メイ様、リコ様にもいずれお願いすることになろうかと」
「「えっ?」」
ゴードンの思わぬ言葉に、メイとリコが同時に声を上げる。
「神殿にとって説歌の開催は大変重要な行事。その説歌が出来るのは歌聖使様たちのみと定められております。メイ様、リコ様をお招きできれば、我が神殿でもようやく説歌を開くことができるようになります。何卒お力添えを賜れますよう……」
ゴードンはそう言うと、二人に向かって深々と頭を下げる。
メイとリコは互いに顔を見合わせると、うーんと首をかしげるしかなかった。
(続)