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Novel

小説

アイドル、異世界のステージに立つ 3

創世記少女 -GenesisGirl- written by Swind

Episode 1 〜 アイドル、異世界のステージに立つ(3)

 一度跳ね上がった怪物の身体が再び石畳に叩きつけられる。
 ドシーンという大きな音が響き、一拍遅れて砂ぼこりが辺り一面に広がった。
 まるで爆風のように押し寄せる砂塵に、ゴードンの後ろで歌っていたメイとリコが顔を背ける。
 彼女たちを包んでいた足下の光は、いつしか消えていた。

「……そうだ! アイツは!?」

 激しい砂ぼこりが落ち着いたところで視線を戻すメイ。
 すると、地響きの中心にいた怪物がボロボロと崩れはじめ、やがて黒い煙が立ち上りはじめた。

「えっ……」

 現実とはとても思えない光景にリコが思わず息を呑む。もちろんメイもあっけに取られたままだ。

 二人が呆然と立ち尽くしていると、剣を納めたゴードンがやってきた。

「メイ様、リコ様。ありがとうございました。お二方の聖歌のおかげで、無事にアポステートへ対処することができました」

 二人の前で跪きながら話すゴードン。しかし、メイは戸惑いを隠せないといった様子だ。

「えっと、聞きたいことはたくさんあるんだけど……。うん、とりあえずゴードンさんが無事でよかった……」
「本当にそうよね。私たちの歌で少しはゴードンさんの助けになったのかしら?」

 リコの言葉にゴードンが大いに頷く。

「滅相もない! お二方の聖歌がなければたちまちあのアポステートにやられてしまっていたことでしょう! お二方の聖歌は、私に力を与えてくれる。これは決して比喩的な意味ではなく、実際に聖歌にはそういう力があるのです」

「うーん、まだ信じられないんだけど、サポート魔法的なものってことなのかなぁ。『聖なる歌の効果で攻撃力+500』みたいな?」

「さすがゲーマーのメイちゃん。すっごく分かりやすかった」

「もー、茶化さないでよー」

 少し緊張がほぐれたのか、メイとリコの顔に笑みが浮かぶ。
 しかし、それも一瞬のこと。メイは再び視線を前に向けると、いつの間にか激しさを増していた黒い煙をじっと見据える。

「そういえば、あの人……というか、怪物? どうなっちゃったの?」

「死んじゃった……ってことですよね……?」

 声を震わせながら話すリコの目をじっと見るゴードン。
 そしてゆっくりと首を縦に振りながら口を開いた。

「一度アポステートに堕ちたものは、あのような形でしか救うことが出来ないのです。骸を残すことさえ許されずただ塵となって消え去るのみ、それがアポステートの末路でございます」

「そう、なんだ……」

 激しく渦を巻きながら立ち上る煙をメイが悲しげな瞳で見つめる。やがてすっと途切れるように煙が納まり、辺りには静寂が戻ってきた。
 ゴードンの言うとおり怪物の肉体は跡形もなく消え去っている。残されたのはわずかばかりのちぎれた布と、石畳についた大きなひびの跡のみ。
 リコは無意識のうちに、ひびの跡へ向けて手を合わせる。
 そして再び顔を上げると、ゴードンにむき直し口を開いた。

「ところでゴードンさん、一つお伺いしたいのですけど……」

 リコが質問をしようとすると、道の向こう側ドカドカドカと大きな音が聞こえてきた。 音の方向に視線を向けると、三頭の馬がこちらへと向かってくるのが見える。
 ゴードンもまたすっと立ち上がると、剣を手にかけながら二人の前へと進み出た。

— ☆ — ☆ — ☆ —

 駆け込んでくる馬の背に見えるのは、甲冑に身をまとった騎士の姿。そのうちの一頭が先んじて近づいてくると、一人の少女ぴょーんと勢いよく飛び降りた。
 少女はくるっと一回転してから着地を決めると、ビシッと指を前に突き出しながら名乗りを上げる。

「さぁ、私たちが来たからには安心よ! 女神パクスディアから遣わされし歌聖使(アンジェ)、『プティット・オリヴィエ』に咲いた美しくも可憐なローズ、サクラがやってきたからには……ってあれ?」

 途中で周りの様子がおかしいことに気づいたのか、サクラと名乗る少女が途中で言葉を止める。
 すると、後ろから追いついた二頭の馬が彼女の近くでゆっくりと立ち止まり、その背中から少女がひとりずつ下りてきた。

 そのうちの一人、眼鏡をかけたツインテールの少女がため息をつきながら口を開く。

「うめちゃーん、だからひとりで先走っちゃだめだってー」

「ほんま、勘弁してほしいわー。うちらまでスベったみたくなってもーとるやん」

 もう一人、クルクルとしたショートヘアが印象的な小柄な少女もまた呆れた様子で、やれやれと手を上げた。
 二人から声をかけられ、サクラが慌てて首を横に振る。

「わ、私は事態にいち早く立ち向かおうとしただけで……って、私はサクラ! うめちゃんって呼ばないでって言ってるでしょ?」

「えー、うめちゃんはうめちゃんだしー」

「せやな。原梅子、それがアンタの名前や」

「ちーがーうーのー! 私はサクラ! 歌聖使(アンジェ)の私はサクラなの!」

「……えーっと」

 目の前で繰り広げられるドタバタに、メイが目をパチクリとさせる。
 リコもまた、きょとんと見つめるばかり。ゴードンもただぼーっと成り行きを見つめるしかなかった。

 すると、ようやく三人の姿に気づいたのか、サクラがツカツカと足音を鳴らしながら近づいてくる。
 そしてキッと表情をひきしめると、三人に向かって口を開いた。
 
「もしかして、貴女たちが先ほど出現したアポステートに対処して下さったのかしら?」
「え、ええ。まぁ、そうなるの、かな?」

「とは言っても、だいたいこちらのゴードンさんが何とかしてくれたのですけどね」

「いえいえ。メイ様とリコ様の聖歌があってこそ、お二方の素晴らしい聖歌の賜物です」
「そう。ということは貴女たちも歌聖使(アンジェ)なのね。それも、一人でアポステートに立ち向かわせるほどの力を持った歌聖使(アンジェ)。さぞかし名うての方々とお見受けいたしますわ。お近づきのしるしに、所属と名前をお聞かせ頂けるかしら?」

 にっこりと口角を持ち上げながら話すサクラ。しかし、その視線は鋭さは先ほどまでと変わらず、有無を言わさない圧力が感じられる。
 メイとリコは一度顔を見合わせたものの、逃れようのない雰囲気にサクラの問いかけに答えるしかなかった。

「私はメイ。えーっと、所属は今いる神殿ってことでいいのかな? 確かアル……アル……」
「メイ様、アルテュイア神殿でございます」

「あー、そうだそうだ。今はゴードンさんのところ、アルテュイア神殿にお世話になってます」

「私はメイのパートナーのリコ。二人ともまだこの世界に来たばかりでほとんど分かっていないんです。もしかして、サクラさんたちも歌聖使(アンジェ)としてこの世界にやってきたってことでしょうか?」

「もしそうなら色々教えてもらえるとすっごく嬉しいんだけど……って、あれ?」

 自分たちと同じようにこの世界に連れてこられた人たちかも知れない。そう考えたメイが質問を投げかけてみるが、サクラは視線を虚空に揺らし、首を捻ったまま動かない。

 すると、二人の困った様子を察したのか、後ろに控えていたツインテールの少女がサクラの裾を引っ張った。

「うめちゃんうめちゃん、メイちゃんたちが聞きたいことあるみたいだよ」

「人の話を聞かんと何を考えこんどるねん」

 クルクル髪の小柄な少女はどうやら少し辛口の言葉遣いのようだ。
 しかし、その言葉にもサクラは耳を貸さず、自分の疑問を口にした。

「ねぇ、アルていや……でしたっけ? そのアルなんとか神っていう神の神殿なんてありましたっけ? あと、サクラだから!!」

「そういやそうやな。うちらもだいぶ長いことこっちにおるけど、アリューシャンだかなんだかなんて神さんの名前は聞いたことないなぁ」

「二人ともー、アルテュイアだってばー。でも、私も聞いたこと無いかもー」

 気がつけば、三人は額を付き合わせて話し込んでいる。メイとリコも眉をハの字にしてお互いを見つめていた。
 すると、馬の近くにいた騎士らしき男のうちの一人が三人に近寄り、ひそひそと小声で話しかける。
 その話に何度か頷くと、サクラが再びメイとリコの前へと立ちはだかる。
 そして、フンと一つ鼻を鳴らすと、満面の笑みを浮かべながらこう告げた。

「私ったら、申し訳ございませんでしたわ。あとは私たちが預かりますので、貴女方はどうぞ安心してお帰り下さいませ」

(続)

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