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Novel 〜第1章〜

小説

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Beginning of GenesisGirl Section 7

「じゃあ今のライブも布教活動の一つということなのね」

 興奮冷めやらぬ神殿前から離れ、ゴードンの案内で目的地へと向かうリコとメイ。
 説歌についての説明をメイが短くまとめると、ゴードンもまたコクリと頷いた。

「左様でございます。説歌(ライブ)により人々の心を引きつけ、信仰をを広げることが神殿の大切な役目なのです」

「なるほど。つまり、私たちは歌って踊って頑張って、信者を増やせばいいってことなんですね」

「……リコって時々大胆なこというよねー」

 あけすけなリコの言葉に、メイが思わずぎょっとしてしまう。
 しかし、ゴードンにはそのストレートな物言いが心地よかったようだ。

「有り体に言えばそうなりますね。とはいえ、信者を集めることは神殿のためではなく、お二方自身のためになることでもあるのです」

「え? そうなの?」

 メイが聞き返すと、ゴードンが首を縦に振る。

「歌聖使(アンジェ)様の力は、信仰の大きさに左右されると言われております。より多くの信者を集め、より深い信仰を得られれば、聖なる歌声を通じてより大きな奇跡を起こせるとか」

「いや、そんな奇跡って言われても……って、そうか」

 一瞬困り顔を見せたメイだが、ゴードンと会った時の事を思い出す。
 あの時、ゴードンは自分たちを助けようとしてくれたものの、魔物の強い力に押されてしまっていた。
 しかし、何かに誘われるかのように自分とリコの二人が歌い始めると、ゴードンの身体がぼんやりと光り、やがて魔物を押し返す。その姿はまるで魔法がかかったようにも感じられた。
 あの時は無我夢中だったが、今思い返してみると確かに自分たちの歌がゴードンに力を授けたと言っても間違いではなさそうだ。

「異世界に来たんだから、それくらいのことはあってもおかしくないのかもね」
 
考え込むメイの顔を覗き込みながら、リコが軽い調子で声をかける。
 その笑顔に、メイもふっと表情を緩めた。

「そうだね。異世界なんだもんね。よーし、いっぱい信者集めて、大きな奇跡を起こすぞー!」

「私もー! たくさんたくさん歌いたーい!」

 吹っ切れた表情で叫ぶメイに、リコも大きな声を上げる。
 そんな二人の様子に、ゴードンはうんうんと頷いた。

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 程なくして到着したのは、広場から少し先に進んだ一角であった。
 広い通り沿いに大きな建物が二つ立ち並んでいる。どちらにも壁や柱に立派な装飾が施されており、大神殿の風格が漂っていた。

「これって、さっきの神殿より大きくない……?」

「うん、どっちだとしてもすごいよね……」

 その圧倒的な迫力に、メイとリコは口をポカンと開けて見上げてしまう。

「それではどうぞこちらに」

 ゴードンは二人に声をかけると、大神殿の方へ歩みを進めていった。
 その後ろをついて行くと、ゴードンはそのまま大神殿の間にある路地へと入っていく。
 メイとリコが二人で並ぶといっぱいいっぱいになってしまうような狭い路地。大柄なゴードンでは一人で道を塞いでしまっているようだ。
 日も当たらないような薄暗い路地を進むと、程なくして小さな広場のような場所に出る。
 するとゴードンは二人に跪き、恭しく頭を下げた。

「遠きところご足労をおかけいたしました。こちらが我らが神殿でございます」

「うそっ……」

「本当に……?」

 メイとリコは、その神殿の姿に再び目をパチクリとさせる。
 案内されたのは、建物がぐるりと囲む中にぽっかりと開いた広場のような空間。その一角にある二階建ての建物をゴードンは神殿として紹介していた。
 蔦が伸びる白い石壁に青く錆びた銅板で葺かれた屋根。その姿はまるで古びた洋館のように見える。何とも趣のある風情をが感じられた。。
 しかし、なにせ小さい。せいぜいちょっと大きめの民家といった程度のサイズ感だ。
 神殿の隣には木造の小屋が建っており、その前には物干し竿に洗濯物が吊るされている。先ほどまで見てきた大神殿の荘厳さとは比べものにならない、なんともアットホームな雰囲気だ。
 あっけにとられている二人の様子を見て、ゴードンが眉をハの字にしながら声をかける。

「ええっと、その……、驚かれましたでしょうか?」

「い、いや、うん、すごい! 素敵な神殿だよね!」

「さっきまで大きな神殿ばかり見てきたので、ちょっとびっくりしちゃったというか……」

 冷や汗をかきながらなんとか取り繕おうとするメイ。一方のリコは、驚きを隠しきれず本音がこぼれてしまっていた。
 そんな二人の反応に、ゴードンがガッハッハと豪快に笑い出す。

「いやいや。むしろ期待を持たせるようなそぶりを見せたのは私の方ですので、お気になさらず。確かに大神殿に比べればいささか小さな所帯ではありますが、信仰の深さでは負けておりません。どうぞ、大船にのった気持ちでお過ごしください。っと、お疲れでしょうから早速中へご案内しましょう。おーい、誰かおらんかー?」

 ゴードンが建物に向かって叫ぶと、神殿の隣に建てられた木造の小屋から一人の若い女性が現れた。
 修道女らしき服装だが、腰に巻かれたエプロンが何とも可愛らしい。
 女性は柔和な笑みを浮かべると、ゴードンに一礼する

「ゴードン様、ご無事のお帰り何よりでございます。ええとそちらは……まさか?」

「そのまさかだ! 我が神殿にもようやく歌聖使(アンジェ)様をお迎えできたぞ!」

「なんと! 本物の歌聖使(アンジェ)様なのですね! ああ、素晴らしい……」

 ゴードンの言葉を聞くやいなや、女性は目に涙を浮かべる。
 そしてメイとリコに向かって膝をつくと、両手を胸の前に組んで一心不乱に祈りを捧げ始めた。


(続)

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