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Novel 〜第1章〜

小説

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Beginning of GenesisGirl Section 9

「えーっ、ボクたち、元の世界に帰れるかもしれないのー!?」

テーブルに手をつきながら、勢いよく立ち上がるメイ。

ドンと言う音と共に、スープが入った木の器がピョンと小さくジャンプした。

「ちょっとメイ、そんなんしたらせっかくのスープがこぼれちゃう」

「あ、ゴメンゴメン。ちょっとびっくりしちゃって……」

リコの指摘に、メイが頬をかきながら椅子に座り直す。

ろうそくの燭台がほのかに辺りを照らす中、二人はこの世界に来て初めての夕食を堪能していた。

木製のテーブルにメイとリコが並んで座り、その向かいにはゴードンと先ほど部屋に案内してくれた修道服姿の女性――アンナが座っている。

リコにたしなめられてシュンとしているメイに、アンナがにっこりと微笑んだ。

「こぼれてもまだお代わりがあるから大丈夫ですわ。でも、せっかく様をお迎えしたのに、こんなものしかお出しできなくて……、ごめんなさいね」

アンナはそう言うと、少し寂しげな様子で視線をテーブルに落とす。

テーブルに並べられたのは、ライ麦パンのような少し酸味のある黒パンに、チーズ、サラダ。そして大きなボウル状の木の器、ベーコンのような塊肉と玉ねぎ、人参が入ったポトフのようなスープが注がれている。質素とまでは言わないものの、決して豪華とはいえないものであった。

アンナの様子に、隣に座るゴードンも眉間に皺を寄せる。

「本当に申し訳ない。ただ、正直これが精一杯で……」

「い、いえいえ! これ、マジでめっちゃ美味しいです! 本当に!」

「そうです! お世辞じゃないです! 優しいお味でほっとします。アンナさん、とってもお料理が上手なんですね!」

申し訳なさそうにする二人に、メイとリコが慌てて声をかける。

確かに豪華さには欠けるかもしれないし、これまで普段食べてきた料理と比べてもシンプルな味わいであることは否めない。しかし、その分食材の美味しさが素直に感じられるし、身体に良さそうな感じもする。なにより、今の二人にとっては、この家庭的な味が何よりうれしかった。

このままでは空気が重くなってしまいそうだと感じたリコが、話題を戻すように口を開く。

「ところで、さっきの話なんですけど、それって本当に本当なんです?」

「ええ、確かに伝説ではそのような話となっております」

ゴードンが首を縦に振ると、アンナがさらに言葉を続けた。

「様たちは、我々の世界に平穏と繁栄をもたらすために神々の命によって遣わされた聖なる存在。その大いなる使命を果たした様たちは、本来すべき場所にお帰りになるというのが我々に伝わっている伝承ですわ」

「なるほどです。でも、『大いなる使命』ってなんなんだろう……。メイちゃんはなんか分かることある?」

首をかしげながらメイを覗き込むリコ。

しかし、リコにもどうやらピンと来ていないようだ。

「うーん、全然わかんない。この世界に来たときも、別に神様から『世界を救いなさい!』と言われたわけでもないしなぁ」

「だよねぇ……。私も何の心当たりもないなぁ」

メイもまた、リコと同じように考え込む。

そんな二人に、ゴードンが再び語りかけた。

「伝説の話ではだいたい『奇跡』とセットになっております。様の大いなる力を持って邪悪なる神々の眷属を打ち払い、そして神の下へ帰られたという話が多く残っております」

「え、なんかめっちゃスゴイ話というか、それって勇者とか英雄とかの言われるような話なんじゃない……?」

壮大なスケールの話に思わず目をパチクリとさせるメイ。

アンナもまた、話を続ける。

「現世に神が降臨されたというケースもありますわ。世界中に響き渡る様の歌声が導きとなって現世に神々が姿を現し、人々に祝福をもたらすと共に、様を迎え入れると聞きます。平和な時代も長く続いていますし、近年はこちらが主流になっているようですね」

「うーん、それもやっぱりすごい話……って、え? 今、近年って?」

やはり大きな話にほーっと息を吐くリコだったが、最後の部分が気になって聞き返す。

すると、アンナがにこっと笑みを浮かべてこっくりと頷いた。

「ええ。最後に様が神を降臨なさったのは確か八年前だったかしら? あの時もそれはもうすごかったですわ」

「ちょっと待って、八年前とかめっちゃ最近じゃん!」

予想していなかった近さに、メイが思わず身体をのけぞらせる。

「そう、今でも十年に一度ぐらいはあることなんですわよ。それを伝説がどうのとか……」

「いや、それはその、やはり伝承は大切にしないとというか……」

「どうせ神殿長としてかっこつけてやろうとか思ってたんでしょ?」

「そ、そんなことは……」

アンナの追求に、しどろもどろになるゴードン。

そんな夫婦のやりとりに、メイとリコは一度顔を見合わせ、そしてくすっと笑みを浮かべた。

すると、ゴードンが顔を赤く染めながら、うぉっほんと一つ咳払いをする。

「確かにアンナが言うとおり、ここ最近の『奇跡』は神々の降臨という形であることは事実。様の歌声に導かれた人々の祈りの心が大きく集まることで、神々が降臨されると言われております」

「えーっと、それってつまり、私たちのファンを一杯集めればワンチャンあるってこと?」

「うーん、ファンとかワンチャンとか言っても伝わらないじゃないかな……?」

自分の言葉にかみ砕いてみたメイだったが、あまりのかみ砕き方にリコがつい笑顔をひきつらせてしまう。

しかし、アンナにはその意図が伝わっていたようだ。

「ファンというのが信徒という意味であれば、まさしくおっしゃるとおりです。ただ、今の信仰の主流はであり、我々のようなの神々を信じる者は決して多いとはいえないのが正直なところで……」

「いや、これは神殿長たる私が十分な布教を出来ていなかったということだ。誠に申し訳ない」

申し訳なさそうにするアンナの横で、ゴードンが頭を下げる。

すると、メイとリコは一度互いに視線を交わし、うんと一つ頷いてから歌を口ずさんだ。

♪ 理想と 現実と 僕らの

♪ 前見て…

♪ 何度も 何度でも 確かめ合う

♪ 走り出せ

♪ この時代の末路に 後悔などない様に

♪ 希望という 名の花咲かそう

♪ 夢の続きまだまだ見たいんだ 立ち上がれ さぁ Look alive !! ♪

♪ 僕らの手で未来を守るんだ 立ち上がれ Yes!!! Look alive !! ♪

自分たちがこれまで一生懸命練習してきた曲のワンフレーズ。それは、二人にとって今の気持ちを何よりも表すものであった。

「チャンスがあるって分かっただけ十分。チャンスがあるなら、あとは頑張るだけ頑張ればいいだけだしね」

「お話を聞く限り、途方もない道のりなんだろうなと感じました。それでも、そこに向かって一歩ずつ進んでいくということに変わりはありません」

「途中でくじけそうになるかもしれない。何度も転んじゃうかもしれない。でも、ゴールがあるって分かったんだから、何度でも立ち上がれるんじゃないかな」

「二人で確かめ合っていければ、きっといつか、希望という名の花を咲かせると思います」

「そのためには、何よりお二人の力が必要です」

「ゴードンさん、アンナさん。どうか、これからお力をお貸し下さい」

交互に想いを伝えるメイとリコ。

その二人の言葉に、ゴードンもアンナも大きく頷いた。

「もちろん、我々も全力でメイ様、リコ様をお支えします」

「でも、決して無理はしちゃダメですよ。身体を壊したら元も子もないんですからね」

「はーい! じゃあ、えーっと……」

と何か言おうとしたメイだったが、言葉より早くお腹がきゅるるとなった。

まさかの返事に、思わず目を点にするリコ。

一瞬の沈黙の後、アンナがくすっと笑みを浮かべながら席を立つ。

「そうね。まずは一杯食べることが大事よね。お代わり、リコ様もいかがですか?」

「私はえっと……」

と言いかけると、リコのお腹もきゅーるると鳴り始めた。

揃って顔を赤く染めるメイとリコに、アンナが優しく微笑んだ。

「二人とも元気がある証拠ですわ。たっぷりお代わり持ってきますわね」

(続)

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