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Novel 〜第1章〜

小説

アイドル、異世界のステージに立つ 5

創世記少女 -GenesisGirl- written by Swind

Episode 1 〜 アイドル、異世界のステージに立つ(5)

「んまっ!うまーーーい!!」

 食卓に並べられたシチューを頬張ると、メイは満面の笑みを浮かべた。
 とろみがついた乳白色のスープに浮かんでいるのはカブの身と葉、ニンジン、玉ねぎ、鶏肉も少しだけ入っている。カブの葉の鮮やかな緑にニンジンの橙色が目にも美しい。
 
「本当においしいです!」

 メイの横で顔をほころばせるリコの言葉に、アンナも笑顔で答える。

「歌聖使(アンジェ)様にそう言ってもらえて本当にうれしいですわ。良かったらお代わりしてくださいね」

「はい!ありがとうございます!」

 いっぱい身体を動かしたせいか、普段よりも食欲が増しているメイが元気よく返事する。
 リコもまた、手元のパンをスープに浸して平らげると、次のパンをとるべく篭に手を伸ばした。

「ところでゴードンさん、先ほどのお話の続きなのですが、サクラさんが仰っていたジェネシストとかハーモニストというのは何なのでしょうか?」

「そうそう、それを聞こうと思ってたんだよね。ご飯がおいしいからちょっと忘れかけてたかも」

「もー、メイちゃんったらー」

 リコがたしなめると、メイが首をすくめながら苦笑いを浮かべる。
 そのやりとりを微笑ましく眺めてから、ゴードンがゆっくりと口を開く。

「そうですね、リコ様のご質問にお答えする前に、まずは我々に伝承されている『始まりの神話』からお話ししましょうか」

「始まりの神話……なんかすごい話になってきた」

 メイは口に含んだシチューをゴクリと飲み干すと、居住まいを正す。

「『始まりの神話』は、その名の通りこの世界がどのように始まっていったかの物語です。その伝承によると、この世界にはもともと多くの『神』が暮らしていたそうです」

「それは、昔は『神』と呼ばれる存在が実在した……ということでしょうか?」

 リコの質問に、ゴードンがこくりと頷く。

「ええ。『始まりの神』がこの世界を生み出し、その世界に大小様々な力を持つ神々が顕現したと言われております。続いて、神々の眷属として生まれたのが『人』。つまり、我々のご先祖様ですね。『神』は『人』に恵みをもたし、『人』は『神』に祈りを捧げる。これががかつて神と人が共存していた『神話の時代』になります」

「なるほどー。でもそれが『神話』の話ということは、少なくとも今は神様はいないってことだよね?」

「メイ様のお考えは、半分正解といったところでしょうか。神は物質的には存在しておりませんが、確かにこの世界にはいらっしゃいます」

「えっと、それはどういうことです?」

 まるで禅問答のようなゴードンの言葉に、リコが首をかしげる。
 メイも理解が追いついていかず、目をパチクリとさせていた。

「それは『始まりの神話』の続きをお聞き頂ければきっとご理解頂けると思います。神と人が共存する時代は残念ながらあまり長くは続きませんでした。というのも、徐々に神々の中で諍いが起こるようになってしまったのです」

「神様なのにケンカ??」

「むしろ『神』だったからこそかもしれません。『神』の使命はこの世界をより栄えさせることであったと言われていますが、そのためのアプローチには様々なものがあったようです。その中で調和や秩序を司る神々と自由や混沌を司る神々の間で対立が深まり、やがて『神話戦争』と呼ばれる大きな争いとなりました」

「神様同士の戦争……」

 真剣に語るゴードンの言葉に、リコがゴクリと喉を鳴らす。

「伝承によると、長きにわたる『神話戦争』はついに決着がつかず、神々はその力を使い果たしてしまったそうです。そのため、神々はこの世界で姿形を維持することが出来ず、物質的な存在としてはこの世界に顕現しつづけることは出来なくなりました。しかし、神の存在そのものが消えてしまったわけではなく、この世界に残された『人』、つまり我々が信仰を続ける限り、知覚できない非物質的な存在としてこの世界に存在し続けています。その最も大きな証拠となるのがお二方ですね」

「へ? 私たち?」

 突然自分たちに話が向き、メイが思わず甲高い声を出してしまう。
 その拍子に喉にシチューが入ってしまったのか、けほけほとむせてしまった。

「っとと、失礼しました」

「メイちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。でも、神がいる証拠が私たちって……あ、もしかして私たちが『歌聖使(アンジェ)』ってこと?」

「その通りです。先ほどのアポステートの戦いでも、お二方が歌われた聖歌乗せて女神アルテュイアの力を授かることができました」

「ということは、あれはただの声援とか応援とかではなく、実際にゴードンさんの力になっているということでしょうか?」

「リコ様の仰せの通りです。アポステートの力は強大、お二方の聖歌を通じて授かった力が無ければひとたまりも無かったでしょう。非物質的な存在となった『神』はこの世界に直接影響を与えることが出来なくなりましたが、その代わり歌聖使(アンジェ)様が歌われる聖歌を通じて、その力の一部を眷属たる我々『人』へと分け与えることができるのです」

「そっか。つまり、私たちが歌うと神様パワーでゴードンさんがステータスアップ!ってことだね」

「すっごくゲームっぽい言い方だけど、そういうことになるよね」

 メイのざっくりとした解釈に同意するリコ。
 二人の納得した様子に、ゴードンがさらに話を続ける。

「前置きが長くなりましたが、これでやっとリコ様のご質問にお答えできます。ジェネシストやハーモニストとは、一言で言えば信仰している神々の派閥になります。ジェネシストは『創造、進歩、発展』などをもたらす神々の一派、ハーモニストは『秩序、平穏、安定、平等』などをもたらす神々の一派。そしてこれが最も重要なのですが……」

 ゴードンは一度言葉を区切る、木製のジョッキに入れたエールをぐいっとあおる。
 そして、ふぅと息をつくと一度天井を仰ぎ見てからゆっくりと口を開いた

「信仰の主流はハーモニスト、我々ジェネシストは圧倒的に少数派なのです……」
「「え、ええー!?」」

(続)

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